京都フォーラムの2講演目は、感動体験をベースに中高生の教育から沖縄の文化産業の育成まで、幅広く活躍されている南東詩人/脚本・演出家の平田大一さんによるご講演でした。
紺色のアロハを着て登場された平田さんは南国の人そのものという印象で、お話もとても情熱的で、会場を熱気の渦につつみこみました。
平田さんは、NHKテレビ小説「ちゅらさん」でも有名になった小浜島の出身で、地元にこだわり、ご自身が島に生まれた意味を問いながら活動されてきました。その活動がきっかけに始まった「肝高の阿麻和利」という舞台は評判が高まり、今では全国でも公演されています。この舞台は、沖縄の地元の中高生が出演し、郷土話を主軸にした沖縄ならではの舞台です。
では、なぜ平田さんは、そこまで島にこだわったのでしょうか。ここで、平田さんの背中を押した3名の方々のお言葉を紹介したいと思います。
1.平田さんのおばあさん
平田さんは、東京の大学に進学されたものの、宮沢賢治の「農民芸術概論」に触発され、ご自身も島に帰ろうと決意されました。ところが当時、島では上京することがステータスと信じられていたので、親戚に取り囲まれて問いただされました。ただそんな中で、おばあさんに言われた「この島を選んで生まれた事を忘れているだけ、ニライカナイ(沖縄で古くから信じられてきた、海の彼方にある神々の楽土)から幸せを乗せて飛んで行く白い蝶になるんだよ」という言葉を思い出し、原点を忘れずにいることができたそうです。
2.スギヤマヤスヒコ先生
平田さんが学生だった当時、70才を超えており、後に学長となったスギヤマ先生。
「島に帰ります」と宣言すると、「アメリカでは一流企業に勤める学生は三流だ。一流の学生は自分で起こすんだ。卒業後のふるまいで一流かどうかがわかる」と背中を押してくださりました。今となっては、仕事に一流も三流もないと分かるそうですが、何かをしなきゃという励みになったそうです。
3.村の長老のおじいさん
自分の生まれた島こそが自分の中心だと、卒業後に小浜島でひとり活動を始めた平田さん。両親にさえ理解してもらえず誰も味方がいない状況での活動の最中、出会った村のおじいさんが言ってくれた言葉「ひとりがひけば みんながひかれてくる」。
森も一本の木から、大海も一滴の水からできている、ひとりが立ち上がれば、みんながついてくるという意味でした。
さらに、そのおじいさんは平田さんに「新しい島の一人目になるつもりか」と問われ、その言葉の重みに平田さんは冷や汗を流しながら「うん」と答えたと言います。
活動を始められた翌年、平田さんのおばあさんが亡くなられました。 平田さんは島の人たちの思いや言葉が消えていくことを痛感し、何かを残したいと強く思い始めました。
そして、「南東詩人」として島のことばで綴った詩集の創作を中心に、農業、観光、文化産業を軸にして様々な活動を8年続けられました。その活動の成果から、演出家として「肝高の阿麻和利」の舞台を一任されました。
この講演の終盤に、舞台の映像を流してくださいましたが、踊り、歌、音楽すべてに島への愛を感じ、また出演しているこどもたちがとても良い顔をした感動的な舞台でした。ただそんな舞台も始めは、積極的に参加してくれないたった7名の子どもたちから始まったそうですから、驚きました。それに当初は学校の先生や親、教育長以外の教育委員会から反対され、多くの苦労があったようです。
その多くの苦労を、平田さんの明るさで乗り越えられ、舞台初日は2000名を動員する大舞台となりました。 当日、その人の多さに子どもたちは圧倒され多くのハプニングもあったようですが、そんなハプニングの時にも、当初は反対していた親や先生たちから「できてるよ」というかけ声や拍手が起きます。
これだけは自信があったという終盤の歌と踊りが終わった際には、子どもたちも観客のみなさんも立ち上がって涙を流したそうです。平田さんに舞台を一任した教育長も、涙を流す体験が子どもにとってどれほど大切であるか、道徳は感動体験である、これこそ本当の教育だと感動されました。
「自分はなぜこんなにも頑張れたのだろうか」公演後に平田さんは自分自身を振り返ったそうです。 そこには、自分の周りに島は最高だという人たちが多くいたこと、そして自分も島にこだわった生き方をしてきた人間として「どうせ、よかっちゃー(田舎者)なのに」と自らの可能性を信じられない子どもたちにその可能性を見せたかったという気持ちがありました。
子どもたちが感動体験を通じて成長し、それを受けて大人が変わり、街が変わる。自分が生まれた島に誇りを持つことができると、例えどんな場所であっても揺らがない強い自分自身がつくれる。小さくても未熟でもオリジナルが一番強い。一流の島人は一流の国際人だという、人づくりの種をまくことが平田さんのモットーです。
最後にはオリジナルの歌を披露していただき、講演後は拍手が鳴り止まないほど、会場全体が平田さんの話に引き込まれ感動につつまれました。 「まだこんな人が日本のいたのか」という紹介通り、子どもたちに、地方にこんな力があるのかと強く感じさせていただいた講演となりました。
(文責:岡本)
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